『背水の電子工作プログラミング』講座を制作するにあたり、なぜ電子工作を最初の題材として選んだのかについてお話したいと思います。
結論から言うと電子工作で「現実世界とデジタル世界をつなぐことができる」からです。
あなたの身の回りの世の中の製品を考えてみてほしいのですが、最近は製品やシステム単体で成立しているものって少なくなってきていると思いませんか?
モノの価値は下がっていく
例えば、テレビ一つを取ってもクイズに回答する機能があったり、スマホなんかも世界中の情報が取ってこれるようになっています。モノのインターネットといわれるIoT化が推し進められ、冷蔵庫やクーラーなどの家電もこれからはインターネットに接続されていくでしょう。
これからのシステムを考えるにあたって、なかなか単体では価値が出せない世の中になっていきます。
モノの価値はどんどん低くなっていきます。
たとえば車ひとつとってみても、ここ何十年と基本的な機能は変化していないにも関わらず、車を所有することに対する意識は変化しています。特に大都市圏では若い人達は特に車を持とうとは考えなくなっています。
クルマには「○○のクルマを所有しているんだ」という所有欲や自己顕示欲を満たしてくれる側面もありました。これからもブランドの確立された高級車などはお金持ちを中心に売れるでしょうし、地方ではやはり車は必需品ですから、やはり売れるでしょう。よほどブランドの確立された製品であるか、必要最低限の機能をそなえた移動の道具として買うか、その2つに分かれていくと思います。
そして、多くの人がクルマの移動時間が無駄になっていることにそろそろ気づきはじめます。そうするとクルマがインターネットにつながることで、インターネットラジオを聞いたり、助手席でYoutubeを見たりすることが当たり前になるかもしれません。自動運転や渋滞緩和の観点からも、車のインターネット化も加速するでしょう。
そうやって全てのモノがインターネットにつながって、そのつながりを利用して価値を上げていくことになります。
モノの価値が下がっていく一方で価値が上昇していくコト
モノの価値が下がっていく一方で価値が上昇しているコトとはなんでしょうか。ひとつは「繋がり」にあります。あなたも自分が見たり、経験したりしたことをTwitterやFacebookなどのSNSでシェアした経験があるのではないでしょうか。
そういったSNS上には人が何に興味があるか、どんなことが今注目されているのかといったマーケティングに必要なデータが蓄積されます。ひと昔前なら、広い範囲に製品を売りたい企業は大きなマス広告を使って宣伝をするくらいしか方法がありませんでした。
今は、こうしたインターネット上にたまったデータを活用して、潜在的な興味のありそうな人に向けてダイレクトに広告が打てるようになりました。今伸びているIT企業の中でもGoogleやFacebookといった企業は製品を売りたい企業と消費者を「つなぐこと」でお金を稼いでいます。つまりは広告業ということになります。
Amazonはどうでしょうか。Amazonのすごさは、製品を売りたい企業が従来のように大きなコストを支払うことなく、ビジネスを行えるようにしたところにあると思っています。たとえば家電メーカー一つをとってもAmazonやその他のインターネット事業者が出てくる前は、メーカーはヤマダ電機などの大手家電量販店で売ってもらうか、自分たちで販路を確保しなくてはなりませんでした。力の弱いメーカーは、販売員を派遣してでも家電量販店においてもらうためのコストを支払はなくてはなりませんでした。Amazonが、中小規模の小売り業者にも販売のためのプラットフォームを提供したことで、小売業を始めるハードルも低くなりました。製品を作らなくても転売で稼ぎたいという個人や小規模の事業主も虜にしました。
Amazonは既存の家電量販店と直接戦うのではなく、中小規模の小売業者と消費者を「つなぐ」プラットフォームを提供することで、中小規模の事業者に「戦わせた」のです。
ですから、プログラミングであったとしても「何と何をつなぐか」という視点が非常に大切です。
電子工作は現実世界とデジタル世界をつなぐ
電子工作に限らず、ほとんどすべてのシステムや製品は、現実の情報を「0(ゼロ)」か「1(イチ)」かに変換することで成り立っています。
誰しも一度くらいは、コンピュータというのは0か1かの電気信号ですべての情報を扱っている、というのは聞いたことがあるのではないでしょうか。
たとえば、温度計を考えてみましょう。昔ながらの温度系は、温度が上がることで体積が膨張するような液体(例えば水銀など)を利用して、使う人が目視で確認ができるようにしています。
一方でデジタルの温度系は、現実にある温度を何等かの方法でデジタル情報に変換して、目分量ではなく数値として確認できるようになっています。
コンピュータで温度や湿度といった数値を計算には、アナログな情報をすべていったんはデジタルの情報に変換してから行う必要があります。ですが、パソコンやスマートフォンといった高度なデバイスでは気温といったアナログな情報をデジタルに変換する機能を内蔵していないことが多いです。
「多い」という表現を使ったのには理由があって、最近ではスマートフォンに傾きを計測するような機能が搭載されていたりして、かならずしもアナログ量をデジタルに変換できないという訳ではないからです。たとえば、カメラだって実際に現実の世界から取り込んだ光をデジタルに変換して画面に表示したりしています。
電子工作では、マイコンと呼ばれる小型で安価なCPUを使って、温度や湿度などのアナログ情報からデジタルデータを作成することができます。温度センサーや湿度センサーからは一般的には電圧というアナログ量になって現れます。これをADコンバーターと呼ばれるICや機能を使って、デジタル情報に変換します。
このように、何かと何かをつなぐ過程において、現実の世界の情報をデジタル情報に置き換える仕事がどこかで行われていることになります。その最前線にいるのが、電子工作の世界でよく使われているマイクロコントローラーと呼ばれるICを中心としたチップになります。
電子工作は、多くのシステムの基本となっている現実の情報をデジタル情報に変換するという処理にピッタリという訳です。